東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)232号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証、第七号証及び第一一号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる(別紙第一図面参照)。
本願発明は、水素を製造するための吸着/脱着方法、特に、水素のほかに、実質的に一容量%以下の濃度の吸着性の強い痕跡の不純物と、一容量%以上の濃度の吸着性の弱い成分とを含有する原料ガスから、水素を製造する方法であつて、かつ、第一吸着装置において、吸着性の強い痕跡不純物を吸着させる工程を行い、第一吸着装置に接続している第二吸着装置において、吸着性の弱い成分を吸着させる工程と水素を排出させる工程とを行い、さらに他の工程として、温度の上昇及び(又は)高温の水蒸気を用いる洗浄により、第一吸着装置の吸着剤を再生させる工程、及び等温減圧及び(又は)部分減圧により、第二吸着装置で吸着されたガスを脱着させる工程を行うことから成る、水素を製造するための吸着/脱着方法に関する(原明細書第三頁第一七行ないし第四頁第一二行)。
コークスの製造、石炭のガス化及び石油の蒸溜等のような工業的操作で発生する水素を含有する原料ガスを利用して水素を製造する方法においては、通常、水素を除いたすべてのガスを吸着する吸着剤を使用することが広く行われており、一方、事実上吸着されない水素は、比較的高い純度で吸着装置から排出させている。このような原料ガス中に含まれている吸着性が強い痕跡の不純物としては、特に、分子量の比較的高い炭化水素、NOX(窒素酸化物)H2S(硫化水素)、メルカプタン、NH3(アンモニア)及び水蒸気を挙げることができ、一方、吸着性が余り強くない成分、又は吸着性が弱い成分としては、特にN2(窒素ガス)、CO(一酸化炭素)、CO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)及びC2H4ガスを挙げることができる。吸着性が弱い成分は、一般に容易に脱着することができるが、吸着性が大きい成分は、脱着(「吸着」とあるのは「脱着」の誤記と認められる。)させることが比較的困難である(同第四頁第一三行ないし第五頁第一一行)。
吸着剤としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルモゲル、分子篩等級の炭素が使用されている。吸着剤は、吸着された物質により完全に汚染されるが、通常、非常に高価なものであるので、吸着された物質を吸着剤から時々放出させなければならない。この工程は脱着と呼ばれ、等温減圧、すなわち圧力解放(Entspannen)及び又は排気(Evakuieren)を行うことにより、あるいは、一般的な減圧のほかに、補足的に洗浄用ガスを使用すること(部分減圧)により行われることが最も好ましい。前記したように、原料ガス中の濃度が比較的低いため、吸着性の強い不純物、すなわち強く吸着される痕跡不純物と呼ばれるガスは、昇温及び(又は)高温蒸気洗浄を行うことにより、初めてほぼ完全に脱着される。以下の説明において、前記の痕跡不純物の除去が取り上げられるときは、減圧及び(又は)部分減圧、並びに昇温による純粋な脱着ではなく、吸着剤の再生を問題としているものである(同第五頁第一二行ないし第六頁第二〇行)。
この種の技術分野においては、水素を含有する原料ガスから水素を製造するために、二段の吸着装置を使用することがしばしばある。二段の吸着工程においては、吸着性の強いガスを第一吸着装置(予備浄化装置)で吸着させ、水素以外の、吸着性の弱いその他のガスを第二吸着装置(主浄化装置)で吸着させ、一方、ほぼ九九容量パーセントより高い、かなり高純度の水素を、第二吸着装置から流出させている。通常、一定の操作条件下で、原料ガスを常に第一吸着装置に貫流させ、その間に、吸着剤に吸着性の強いガスを徐々に吸着させる。したがつて、吸着剤は次第に汚染される。ガス混合物は、第一吸着装置から流出した後、第二吸着装置に流入し、該第二吸着装置で、残存する吸着性の弱いガスから、水素が分離される。分離すべきガス成分の一つに対する吸着剤が、吸着容量の限界に達したとき、すなわちこのガス成分が吸着されずに流出してきたとき、減圧又は部分減圧により、吸着に代えて脱着が行われる。吸着と再生のサイクル・タイムは、第一吸着装置の工程については、通常数日~数週間である。これに対し、第二吸着装置においては、吸着と再生のサイクル・タイムは、数分から多くとも一時間あるいは一時間半までの範囲である。第二吸着装置に比べて、第一吸着装置での再生には、多くの費用を必要とし、したがつて高価であるので、第一吸着装置の全吸着時間(使用可能時間)を、可能な限り長くすることが試みられている。第一吸着の工程で吸着剤が迅速に汚染されることは、吸着処理全体の経済性にとつて問題である。使用可能時間は、一般に、原料ガスの組成と、吸着剤の品質により影響を受けると共に、ガスの温度と圧力にも影響される。従来の方法においては、これらの影響量を最も適切に利用した場合でさえ、使用可能時間は依然として非常に短いものであつた(同第七頁第一行ないし第九頁第一四行)。
本願発明の目的は、水素を製造する装置において、吸着性の強い痕跡の不純物を吸着する第一吸着工程での吸着剤の使用可能時間を、簡単な方法により、従来公知の方法に比較して、より長いものにすることにある。前記の目的は、本願発明の要旨に記載されている構成を採用することにより、達成される(同第九頁第一五行ないし第一〇頁第七行、昭和五六年九月一四日付け手続補正書第二頁第六行ないし第一一行、及び昭和五七年八月五日付け手続補正書第二頁第一〇行ないし第一七行、第三頁第一行ないし第四頁第四行)。
本願発明においては、浄化すべきガス混合物は、ほぼ同一の圧力の下で、第一吸着装置と第二吸着装置に供給される。すなわち、第一吸着装置から流出したガス混合物は、できるだけ短い距離を経て、バルブが解放された管路を通過して、第二吸着装置に導入され、そして一般に九九容量%より高く、たいてい、九九・九容量%より高い純度の水素が、前記第二吸着装置の端部から排出する。いずれの吸着装置においても、一箇所のガス流出口を経て減圧が行われるので、費用を要する配管系統とバルブ系統を全く必要としない。第一吸着装置の吸着剤は、第一吸着装置において圧力の周期的変換を行わない従来の方法の場合より、大幅にゆつくりと汚染される(同第一〇頁第一一行ないし第一一頁第四行)。
本願発明においては、第一吸着装置の吸着剤の再生は、簡単に行い得る。その理由は、吸着剤の再生を、原料ガスの供給を止めて、両吸着装置の接続管路内の弁を閉鎖するだけで行い得るからである(同第一一頁第六行ないし第一〇行)。
本願発明の他の実施態様によれば、減圧の際に流出するガスを吸着方向とは反対の方向に誘導する。この場合、両吸着装置は、直列に接続されており、第一吸着装置の使用可能時間は、両吸着装置が並列に接続されている場合より大幅に改善されると共に、製造された水素の純度も高いものとなる(同第一一頁第二〇行ないし第一二頁第五行)。
さらに、一バール以上の圧力で吸着を行い、一方、吸着の場合より大幅に低い圧力で脱着を行つた場合には、周期的な圧力の変換を行うことによつて、第一吸着装置と第二吸着装置の吸着剤の、特に効果的な利用を図ることができる(第一二頁第六行ないし第一二行)。
別紙第一図面の1a図と1b図には、二つの二段吸着/脱着装置系が、対比して示されている。1a図は、本願発明による好ましい処理工程を図解したものであり、1b図は、従来の処理工程を図解したものである。原料ガスは、導管1を経て、吸着剤が充填されている第一吸着装置(VR)に供給される。吸着性の強い痕跡の不純物が除去されたガス混合物は、解放された弁V1を経て、同様に吸着剤が充填されている第二吸着装置(HR)に到達する。水素は、ガス流入口と反対側にある端部から、導管2を経て、第二吸着装置から流出する。圧力解放(Entspannen)による減圧は、導管3を経て行われ、一方、排気(Evakuieren)による減圧は、導管4を経て行われる。このとき、弁V1とV4(圧力解放の場合)、あるいは弁V1とV3(排気の場合)を除いて、両吸着装置の供給導管と排気導管上にある他の弁は、すべて閉鎖されている。前記の導管3と4から流出するガス混合物は、貧ガス(Armqas)と呼ばれており、この貧ガスは、原料ガスに比べて、製造された水素量に相当する量だけ、水素の減少したガス組成を有する。最後に、吸着装置VRを再生するために、弁V1を閉鎖し、必要な場合、点線で表示された導管経路を経て、再生用媒体を吸着装置VR中に供給し、再び該吸着装置より排出させる(第一三頁第一九行ないし第一五頁第八行)。
別紙第一図面の第3図には、本願発明の方法によつて達成される第一吸着の工程における吸着剤の使用可能時間の改善に関する効果を実証するために行われた実験の結果が示されている。第一吸着後でも、圧力の変換が行われる場合は、公知の要領で第一吸着装置だけが貫流される場合ほど迅速には、痕跡不純物による被害が生じないことが、非常にはつきりと認められる。本願発明の方法を示す別紙第一図面の1a図のテストの場合、活性炭一m2当たり三五〇、〇〇〇m2の原料ガスを吹き込んだ後に、初めて、第一吸着工程の吸着装置(VR)が動力学的な吸着係数の最初の明確な低下を示すことが測定により確認された。この場合は、三九日後であつた。第3図では、活性炭一m2当たり四〇、〇〇〇m2までの範囲だけの結果が対比して示されている(同第一五頁第二〇行ないし第一六頁第二行、第二〇頁第一〇行ないし第二一頁第二行)。
以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。
2 本願発明と第一引用例記載の発明との相違点について
原告は、本願発明は、専ら高純度の水素ガスを得ることを目的としているから、第二の化合物を含む弱吸着性の成分は除去されるべき不純物として取り扱われるのに対し、第一引用例記載の発明は、特定モル比の水素と第二化合物との混合ガスを製造することを主たる目的とするから、第二の化合物は、回収して再使用すべきものとして取り扱われているのであつて、審決は、第一引用例記載の技術内容を誤認した結果、両者が「第一の吸着装置で吸着性の強い不純物ガスを吸着し、第二の吸着装置で吸着性の弱い不純物ガスを吸着除去」する点において共通すると過つて判断したものである旨主張する。
そこで、第一引用例記載の技術内容を検討するに、成立に争いない甲第四号証によれば、第一引用例には、次のような記載があることが認められる(別紙第二図面参照)。
本発明は、一方では、高純度の水素を、他方では、水素と第二の化合物の限定したモル比の混合物を製造する目的で、圧倒的含有量の水素と、少なくとも一種の第二の化合物とを含有するガス状流体の処理方法と装置を目的とする(第一頁左下欄第一六行ないし第二〇行)。公知方法の主たる欠点は、十分な純度の状態で除去された水素の収集の不可能さにある(第一頁右下欄第一五行ないし第一七行)。
本発明の要旨は、過剰の水素の分離処理を、少なくとも一種の吸着物質上を通して行い、かつ、第二の化合物で富化されたガス状溜分を吸着物質の脱着中に回収することを特徴とする、ガス状流体に過剰の水素の分離処理を受けさせ、第二の化合物で富化されたガス状溜分を回収し、かつ、前記ガス状流体の他の部分中に送ることから成る、圧倒的含有量の水素と、第二の化合物とを含有するガス状流体から、高純度の水素、及び限定したモル比の水素と第二の化合物とを含有する混合物の製造方法に存する(第二頁左上欄第四行ないし第一四行)。
それぞれの吸着ラインは、少なくとも一個の最初の吸着帯域と、一個の最終の吸着帯域とから成るのが好ましく、前記ガス状混合物は、種々の残留圧力における加圧を止め、かつ、真空下に押し出すことによつて、脱着による物質の再生によつて回収され、最終帯域は、最初の帯域より高い真空で再生される(第二頁左上欄第一八行ないし右上欄第三行)。
吸着装置が第2図(別紙第二図面参照)に示されている。この装置は、二種の吸着器(以下「吸着装置」という。)9及び10(それぞれ9a、9b、9c、9d及び10a、10b、10c、10d)の四つのラインから成つている。第一のライン9は、湿分、メタン及び窒素とCOの大部分を保留する吸着剤の層が容れてある。第二のライン10は、残つている窒素とCOの保有を完了させる。二種の吸着装置9、10の区分は、第一の吸着装置が適度の真空下でのみ再生することができるのに対し、第二の吸着装置は、純粋なガスの製造に必要な真空下で再生される(第三頁左上欄第四行ないし第一八行)。これらの吸着装置9、10は、水素の所望量の除去に必要な混合物の部分のみを処理する。COを含む不純物は、集められ、コンプレツサー4で再圧縮し、かつ、処理されなかつた入口ガスと混合する(第三頁右上欄第三行ないし第六行)。
等温吸着サイクルを四段階に分割すると、吸着サイクルの操作は次のとおりである。。段階Ⅰ(略)。段階Ⅱ 二種の吸着装置に分離すべきガスを装入すると同時に、一五バールの圧力における純水素の等温摘出(バルブ16、14及び13を開き、バルブ11、12、15、17及び18を閉じる)。段階Ⅲ この段階は、二段階に分けられる。(a)膨脹を中間圧力に降下し(バルブ14及び12を開き、バルブ11、13、15ないし18を閉じる)、低純度の水素を生成させること。(b)この膨脹の残部を、導管18を通して、回収混合物の移送コンプレツサーに送る。ガスの回収により、大気圧に降下する(バルブ14及び18を開き、バルブ11ないし13、15ないし17を閉じる)。段階Ⅳ 真空による二種の吸着装置の再生。第一吸着装置を、塔内に一〇mmの値の真空を確保するために、四個のポンプに連絡し、一方、第二吸着装置を、一mmの値の真空とするために、一個のポンプに連結する(バルブ17及び15を開き、バルブ11ないし14、16及び18を閉じる)(第三頁右上欄第一一行ないし右下欄第二行)。
右記載によれば、第一引用例記載の発明は、圧倒的含有量の水素と、少なくとも一種の第二の化合物を含有する原料ガスを処理する方法に関するものであり、右方法における過剰の水素の分離処理過程において、高純度の水素を得ることをもその目的の一つとしていること、そのために、吸着装置9、10を直列に接続して使用するものであつて、第一吸着装置9は、原料ガス中の湿分、メタン及びN2とCOの大部分を吸着し、第二吸着装置10は、残りのN2及びCOを吸着するものであること、この吸着の工程中、両吸着装置を接続するバルブは開けられているが、その後の真空による脱着工程に当たつては、右バルブは閉じられ、両吸着装置は、別々の真空下で、同時に脱着されるものであることが開示されていると認められる。
したがつて、第一引用例記載の発明において、COガスは、第二の化合物として回収されるものであつて、不純物とはいえないとしても、高純度の水素を得るという観点から右処理操作をみれば、原料ガス中にCO、N2、CH4のガス状成分が含まれている事実、及び、該ガスを吸着装置に通して水素以外のガス状成分を吸着せしめて水素を分離し、次いで吸着されたガス状成分を脱着するとの事実においては、本願発明と何ら変わりはないというべきである。
もつとも、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、第一吸着装置9及び第二吸着装置において吸着されるガス成分を、それぞれの吸着性の強弱に着目してとらえた記載は存在しないが、第一引用例記載の第一吸着装置9には、湿分、CH4及びN2とCOの大部分を保留する、アルミナ、活性炭及びゼオライト5Aの三層から成る吸着剤が容れられており、第二吸着装置10には、残留するN2及びCOの保有を完了させるゼオライト5Aが容れられていることが認められる(第三頁左上欄第八行ないし第一四行)。一方、本願明細書に、「吸着性の強い痕跡の不純物としては、特に、比較的分子量の高い炭化水素、NOX、H2S、メルカプタン、NH3、水蒸気を挙げることができ、一方、吸着性が余り強くない成分または吸着性が弱い成分としては、特にN2、CO、CO2、CH4、C2H4ガスを挙げることができる。(中略)吸着剤としては、とくに、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、分子篩等級の炭素が使用されている。」(第五頁第三行ないし第一四行)と記載されていることは、前記のとおりである。
そうすると、両者は、使用する吸着剤、及び吸着により除去しようとしているガス成分において、共通する部分を有しているものであり、かつ、両者の第一及び第二吸着装置は、前記のとおり、いずれも高純度の水素を得るために配設されているのであつて、水素以外のガス成分を完全に分離する事実において差異はないのであるから、本願発明の構成について、第一引用例記載の発明の構成と共通するところがあるとした審決の前記認定には、その結論に影響を及ぼすような誤りがあるということはできない。
3 相違点<1>の判断について
原告は、第一引用例記載の発明において、第一及び第二吸着装置が脱着の段階で異なる真空度に減圧されているのは、その技術的課題から必然の事項であるから、両吸着装置を接続された状態で同じ真空度とすることは第一引用例の記載からは予測し得ない事項であると主張する。
第一引用例記載の発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、前記2で認定したとおりである。一方、本願明細書及び昭和五七年八月五日付け手続補正書には、本願明細書の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、前記1のとおり記載されているが、これを要するに、水素を含有する原料ガスから水素を製造するために二段の吸着装置を配設する従来公知の方法においては、吸着性の強い痕跡の不純物による吸着剤の汚染が非常に早いので、第一吸着装置が完全に汚染された時に必要とされる吸着剤の再生を頻繁に行わねばならず、吸着から再生を行うまでの吸着剤の使用可能期間が短いという欠点があつたところ、本願発明は、この欠点を解消して、第一吸着装置の吸着剤の使用可能期間をより長いものとすることを技術的課題とするものであること、右技術的課題は、前記の従来公知の方法において、第一吸着装置の吸着剤が痕跡不純物により完全に汚染されるに至るまで、吸着工程及び被吸着ガスの脱着工程の間の圧力変換を、第一吸着装置とこれに接続している第二吸着装置の両方について、同一の条件下で行うことにより達成されるものであることが認められる。
そこで、本願発明と第一引用例記載の発明とを対比してみると、両者は、水素を含有する原料ガスから、高純度の水素を製造するために、二段の吸着装置を連結して配設するものであるが、本願発明が、第一吸着装置と第二吸着装置の両方を、常に同一の条件下において、圧力変換を行つているのに対し、第一引用例記載の発明においては、吸着工程は同一の圧力条件下で行つているものの、被吸着ガスの脱着のための圧力変換は、第一吸着装置と第二吸着装置とを異なる真空条件にして再生させている点で、本願発明と第一引用例記載の発明との間には、審決認定のとおり相違点<1>が存在するものと認められる。
この相違点<1>についてみると、前記のとおり、本願発明が、第一吸着装置の有効利用、すなわち使用可能時間の延長を達成することを目的とし、そのために、第一吸着装置及び第二吸着装置の両方を同一条件にして、圧力変換、すなわち吸着工程と、被吸着ガスの第二吸着装置における脱着工程とのサイクルを行うという構成であるのに対して、第一引用例記載の発明は、高純度の水素を分離回収することと併せて、限定したモル比の水素と第二の化合物を製造することをも技術的課題としているものである。さらに、第一引用例には、「二個の吸着器9―10へのこの区分は、第一の吸着器が適度の真空下でのみ再生することができるのに対し第二の吸着器は純粋なガスの製造に必要な真空下で再生される。(中略)これらの吸着器9―10は水素の所望量の除去に必要な混合物の部分のみを処理する。COを含む不純物は集められコンプレツサー4で再圧縮しかつ処理されなかつた入口ガスと混合する。」(第三頁左上欄第一五行ないし右上欄第六行)と記載されているように、第一引用例にいう真空下における脱着とは、水素の分離の際に、吸着剤に吸着された、例えばCOのような第二の化合物で富化されたガス状成分を回収することを意味し、第一及び第二吸着装置に吸着されたガス状成分は、それぞれの真空条件下で同時期に脱着回収され、両吸着装置が同時期に再生されるものであることが開示されているのみであつて、両吸着装置を真空脱着以外の方法で再生することについての開示はなされていない。すなわち、第一引用例記載の発明には、本願発明における、真空脱着では脱着し得ない吸着性の強い不純物の存在についての認識がなく、したがつて、第一吸着装置が吸着性の強い痕跡の不純物を吸着するものであるとの認識はないのであるから、第一吸着装置の再生を、真空脱着以外の、温度の上昇及び高温の水蒸気を用いる洗浄により行うことを示唆する記載は何ら認められないのである。
このように、本願発明における、第一吸着装置内の吸着剤が吸着性の強い痕跡の不純物により完全に汚染されるまで、第一吸着装置とこれに接続している第二吸着装置の両方について、同一の条件下で圧力変換を行うこと、殊に、脱着を同一の条件下で行うとの構成が、第一引用例記載の発明の構成と相違しているのは、両者の目的の相違から不可避のことというべきであり、かつ、本願発明は、右構成を採用したことによつて、第一引用例記載の発明には期待できない、第一吸着装置内の吸着剤の使用可能期間を顕著に延長し得るとの作用効果を奏するものと認められる。このことは、前掲甲第二号証によれば、別紙第一図面3図には、本願発明によつて第一吸着工程における吸着剤の使用可能期間改善に関する効果を実証するための試験の結果が示されており本願明細書第二〇頁第一四行ないし第二〇行には、「(本発明の方法を示す第1a図の)テストの場合、活性炭一m2当り三五〇、〇〇〇m2の原料ガスを吹き込んだ後にはじめて、予備浄化工程の吸着装置(VR)が動力学的な吸着係数の最初の明確な低下を示すことが測定により確認された。この場合は、三九日後であつた。」と記載されていることが認められることから、明らかである。
すなわち、前掲甲第二号証によれば、右試験は、本願明細書第一五頁第二〇行ないし第一八頁第三行に記載されているように、活性炭に痕跡不純物が強く付着するほど早くN2が現れることから、活性炭が充填された第一吸着装置に原料ガスを一定圧力で貫流させ、原料ガス中に含まれるN2が現れる時間を測定し、このN2の出現時間から計算される吸着係数(K)の測定を介して、間接的に第一吸着工程における吸着剤の使用可能期間の改善に関する効果を実証するものであつて、別紙第一図面3図の点線は本願発明の方法である同図面1a図の装置による結果を、同図面の実線は公知の方法である同図面1b図の装置による結果を、比較して示しているものであることが認められるから、両者の作用効果の差異は明らかである。
そうすると、審決は、第一引用例記載の技術内容を誤認した結果、相違点<1>について、いずれの発明においても第一及び第二吸着装置の真空脱着が同時に行われるものととらえ、両発明の相違は、単に真空条件の差異のみであるとして、右条件の設定は適宜になし得ることと判断したものであつて、妥当ではないというべきである。
この点に関し、被告は、本願発明の要旨の「予備浄化装置とこれに接続している主浄化装置との両方について、同一の条件下で圧力変換を行う」との表現は、両吸着装置を連通した状態で脱着することまでも意味するとはいえないと主張する。
しかしながら、審決が、相違点<1>の判断に際し、「真空脱着に当り両吸着装置が接続された状態で同じ真空度として脱着を行うことは適宜なし得るもの」(同丁表第六行ないし第八行)と判断したのは、本願発明の両吸着装置が、脱着工程においても連通した状態であると認識したからにほかならないことが明らかである。したがつて、被告の右主張は、審決と趣旨を異にするといわざるを得ない。
のみならず、本願明細書には、前記のとおり、「本発明に係る方法においては、予備浄化装置での吸着剤の再生は簡単に行い得る。その理由は、吸着剤の再生にあたつては、原料ガスの供給を止めて両者浄化装置の接続管路内の弁を閉鎖するだけで行い得るからである。」(第一一頁第六行ないし第一〇行)、「第1a図は、本発明による好ましい処理工程を図解したものであり、(中略)圧力解放(Entspannen)による減圧は導管3を経て行われ、一方、排気(evakuieren)による減圧は導管4を経て行われる。このとき、弁V1とV4(圧力解放の場合)あるいはV1とV3(排気の場合)を除いて、両吸着装置の供給導管と排気導管上にある他の弁はすべて閉鎖されている。(中略)最後に、吸着装置VRを再生するために弁V1を閉鎖し」(第一三頁第二〇行ないし第一五頁第五行)と記載され、さらに、実施例1においては、「ガスを、HRの端部(導管2)でN2の最初の出現が確認されるまで、一五バールの圧力で指定された方向に(弁V3とV4は閉鎖された状態で)吸着装置を通過させ導入した。(中略)N2が出現した後、減圧(圧力解放と排気)により(弁V2とV4を閉鎖したまま)指定された方向(第1図参照)に脱着を行つた。」(第一八頁第一八行ないし第一九頁第八行)と記載されているのであつて、これらの記載と、別紙第一図面の2図を総合的にみると、第一吸着装置と第二吸着装置とを接続している管内の弁は、第一吸着装置を再生するために閉じられている時以外は、開いているものと認められるから、両吸着装置は、脱着工程時にも当然に連通した状態にあると解するのが相当である。そして、前記のとおり、真空脱着の直接の対象となるのは第二吸着装置であつて、第一吸着装置は、同一の圧力条件下におかれているという意味では圧力変換に関与しているとしても、第一吸着装置の再生自体は別途に行われるものであるから、被告の前記主張は失当というべきである。
また、被告は、単に吸着剤の再生のために被吸着ガスを脱着するのみの目的ならば、簡単な真空脱着系で十分であるから、本願発明のように両吸着装置を同一条件下で真空脱着することは、当業者ならば適宜なし得ることであると主張する。
しかしながら、第一引用例記載の第一吸着装置及び第二吸着装置の真空脱着は、それぞれが吸着したガス状成分の脱着に適した条件下で行われているが、これは、COを含むガス状成分を回収するとの発明の目的から考えると、被吸着成分が異なる場合には、それぞれの脱着に適当な条件を選んで脱着操作を行うことが自然だからであり、第一引用例記載の発明においては、両吸着装置の脱着を同一の条件下で行うことには、何らの必然性もないといわねばならない。しかも、第一引用例には、本願発明の目的及び構成について教示するところがないことは前記のとおりであるから、第一引用例記載の別々の真空系による脱着に換えて、本願発明のように両吸着装置を同一条件下で真空脱着することは、当業者ならば適宜になし得るという被告の主張は、採用することができない。
4 以上のとおりであつて、審決は、第一引用例記載の技術内容を誤認した結果、本願発明と第一引用例記載の発明との相違点<1>の判断を誤り、本願発明は第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであつて、違法であるから、取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
水素の他に、実質的に一容量%以下の濃度の吸着性の強い痕跡の不純物と一容量%以上の濃度の吸着性の弱い成分とを含有する原料ガスから水素を製造する方法であつて、かつ、第一の吸着装置(予備浄化装置)において吸着性の強い痕跡不純物を吸着させる工程を行い、そして第一の吸着装置に接続している第二の吸着装置(主浄化装置)において吸着性の弱い成分を吸着させる工程と水素を排出させる工程を行い、さらに他の工程として、温度の上昇及び(又は)高温の水蒸気を用いる洗浄により予備浄化装置の吸着剤を再生させる工程、及び等温減圧及び(又は)部分減圧により主浄化装置で吸着されたガスを脱着させる工程を行うことからなる水素を製造するための吸着/脱着方法において、予備浄化装置内の吸着剤が前記痕跡不純物により完全に汚染されるまで、予備浄化装置とこれに接続している主浄化装置との両方について同一の条件下で圧力変換を行うこと、及び、前記予備浄化装置内の吸着剤が痕跡不純物により完全に汚染されたときにだけ、予備浄化装置を主浄化装置から分離して、既知の方法により吸着剤を再生させることを特徴とする、水素を製造するための吸着/脱着方法(別紙第一図面参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙第一図面
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